katsu708のブログ

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世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

 

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

 

 

 経営学の最前線を紹介しているけれど、噛み砕きすぎて逆にすごさが伝わらないような。著者も言うように、自然言語で記述される経営学は、正確性や再現可能性、反証可能性に多々難がありそうである(数式や統計理論によって記述される経済学もそれはそれで困難を孕むけれど)。

 ごく一部の勝者が存在するのがビジネスの世界であるのならば、そもそも現代の経営学(主に北米)の主流の演繹的なアプローチの意義は見いだしにくそうである。また、ビジネス上の成功は回帰分析が有効な回帰式で表せるのか(成功というのは外れ値ではないのか)にも疑問が残る。 一方で、平均的な成功を目指すのには有効でありそうだ。つまり飛び抜けた成功をする方法ではなく、失敗を減らしたり成功の確率を高める方向の活用法である。 あと、ガウシアン統計というのは、正規分布を仮定している統計処理ってことで良いんですかね。

 自分としては実学としての経営学を求めているので、経営学が学問かどうかという疑問やそのアイデンティティには全く興味は無いのだが、組織学習の概念は面白かった。

互いを知り合うほど「相手が何に詳しいか」というトランザクティブ・メモリーを自然に持つようになる。(p.97) 互いを知ることで自然に形成されるとランザクティブ・メモリーを強制的にゆがめると、むしろ組織の記憶の効率は落ちる可能性がある。(p.100) 

「当面の事業が成功すればするほど、知の探索を怠りがちになり、結果として中長期的なイノベーションが停滞する」というリスクが、企業組織には本質的に内在しているのです。これが「コンピテンシー・トラップ」と呼ばれる命題です。(p.137)

 多くの企業が激しい競争を行っている中で、「ごく一部の勝者」が存在するのがビジネスの現実です。(略)もしこのようなごく一部の勝者が、平均的な企業とはまったく違うメカニズムで勝っているのであれば、そしてそれが既存のガウシアン統計では何をどうやってもとらえきれないのであれば、それらをどのように分析していくかは、経営学をより「役に立つ」ものにするための重要な課題と言えるでしょう(p.325)