katsu708のブログ

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ゼロ・ダーク・サーティ

 

 

  アメリカによる政治の宣伝のための創作だってのは各所で散々言われているだろうけど、そもそもプロパガンダを指向しているのかは疑問ではある。最後の作戦だって決定的な証拠がある訳ではなく、とりあえず行ってみて何もなければこっそり帰ってくることが担当者のゴリ押しで決まったわけで、華々しい成果かと言われれば微妙なところではある。あと、テロの犠牲になったCIA職員は控えめに言っても警戒が足りないし。あと、CIAって18歳でリクルートされるものなんだなぁと本筋と関係ないことを思ったり。

 ただ、世論の感情で報復攻撃が行われたのではなく、あくまで主人公の妄念や執念が標的を追いつめたかのような表現になっているのが面白い。

 主人公の変化はこの映画を見る上で注目すべきポイントで、最初の拷問に目を背けてた彼女がすぐ後には自ら(間接的に)拷問していた。保守的に話を作るなら転機になるエピソードを挟むところだけれど、あえてそれをしないことで、彼女の適応能力や意志の強さを見せているのが伏線になっている。

 序盤で同僚によって語られてもいる彼女の冷血さは話が進むごとに示されていく。思い通りにならない上司を(おそらく)失脚させ、突入作戦を強硬に支持する。友達はいないけど酒を飲むシーンは多い。状況は進展しないのに彼女自身が精神的、社会的に危険な方へ転がっていくスリルがある。そして全てが終わったあとに涙を流すがその意味は語られない。それは恐らく彼女自身の破滅であったように思う。対象を殺害するために十数年を捧げてきた結果、彼の死によってもたらされた終わりには何かの始まりを感じさせるものではなかった。単なる終わりとしてそこにあるだけだ。