katsu708のブログ

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風立ちぬ

 

風立ちぬ [DVD]

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 内容は空虚。二郎が徹頭徹尾飛行機の設計者として設定されているからである。彼が妻を愛していたかという疑問はたぶん無意味。結核の患者にキスするシーンが何度もあったり、彼女の目の前で煙草を吸うシーンがあるが、医学的な知識が無かったのかもしれないし、男性優位の時代故の愛し方なのかもしれない。

 高い航空性能と引き換えに防弾を度外視した機体は、工学的には美しいかもしれないが、パイロットにとっては非人道的である。終盤で敵機に容易に背後を取られて墜落していく機体が印象的である。「(機体は)一機も帰ってこなかった」と回想する二郎の視線が航空機の喪失のみに向けられているのは明白だろう。 「俺たちは武器商人じゃない」との同僚の言葉もやはり虚しい。どう取り繕っても彼らは武器商人だからである。

 ただ飛行機が壊れる様は綺麗ですらあった。空気抵抗で主翼が多数の破片に分解していくシーンの描き方は流石。あと夜警の人影の動きも良かった。 テクノロジーに取り憑かれること、そしてその功罪が在った。そこに何かの主張があるわけではなく、意図的に主張を抑えているのだろう。それがかつて自身も航空機を数多く扱ってきた宮崎駿の限界であり選択であるように感じる。

 テクノロジーの進歩に関わる者は無謬でも潔白でもいられないんじゃクソが、って感じが非常によく伝わってきていい映画でした。純粋な憧れはある意味狂気だし人として最低だったりするし。上司と一緒に試作機に乗って油まみれになるのはその暗示かもしれない。いずれにせよ、宮崎駿の引退作としてこれ以上のテーマはないのではという気はする。